湘南連句公開座談会 御仏の巻

 会場には、力強い毛筆で今年の座談会のテーマが掲げられていた。『六曲一双 御仏の巻』。その隣に並んだ三つの句に、今年はどんな作品が続くのだろう。昨年の様子を思い返しながら私は小さく胸躍らせた。


 東海大学湘南連句公開座談会は今年で第六回目を迎え、会場には多くの来場者が集まった。私は昨年に続いて二回目の参加だった。句を通じて行われる共同作業は難しくも奥深く、今回も楽しみに臨んだ。傍らに電子辞書を用意して辺りを見回すと、ほとんどの人が同じくして、一部には専門書を携えている人もいた。来場者の熱意をひしと感じる。

 午後一時半過ぎ、選者である長谷川櫂先生、辻原登先生、歌人の小島ゆかり氏が席に着いて『御仏の巻』が始まった。長谷川先生の司会の下、まずは連句のルールが説明される。発句・脇・第三の三句で始まり、続く四句目からを会場にいる全員で作っていくという形式だ。五七五、七七のリズムとそれぞれに与えられたテーマに沿うことを基本に、句の内容が前に掛かりすぎたり戻ったりするようなことを避けつつ、ひとつの句として完成させないといけない。なかなか頭を使う高度なゲームだ。

 発句、脇、第三と解説がされた後、実際に来場者による創作が始まる。四句目が季語を詠みこまない「雑」の部で始まったからか、始まってすぐに意外性のある句が続々と挙がった。予選作品を選ぶ時点から長谷川先生による実況が行われ、その中から選ばれた三句から五句がスクリーンに映し出され、選者三人で話し合い、一句が選ばれる。しかしどれも伯仲するあまり、会場全体の多数決で決まることもあった。そうして掲げられていく句を眺めつつ、私も予選を目指して句を考えるが、これがなかなか取り上げられない。選ばれていく作品の出来栄えに頷きながらひたすらに頭を捻った。

 そうして濃厚な三時間が経過し、ついに挙句が選定された。記念すべき最後の作者は、なんと会場の後方に座っていた文芸創作学科の伊井直行先生だった。本人は決まり悪そうに来場者に謝っていたが、誰もが納得する挙句だ。こうして表裏合わせて十二句が完成し、『御仏の巻』は無事幕を閉じた。


 連句の楽しみは個人で句を作ることよりも、他者の連想を眺めるところにあるだろう。発想の違いを句で知り、人の考えの多様性をそこに見る。一つの座から枝のように広がる可能性が連句の不思議と醍醐味だ。

「六曲一双」御仏の巻

御仏や青葉若葉に歩み入る
恋の懺悔とみゆる羅
葛餅の冷し加減のほどよくて
七人つどひバイクの仲間
スフィンクスを照らし出したる後の月 秋月
生まれ変われば君曼珠沙華
雲間より見ゆる遥かな秋の海
もう会はないと言はれ柚子風呂 冬恋
踏み込んだペダルの重さ二人分 雑恋
卒業式の朝は切なく
雨強し傘の上にも桜かな 春花
通せんぼする蛙の行列
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