第7回東海大学湘南フィルムフェスティバル 学生レポート

観客編――笑う! 狸御殿

文芸創作学科2年次 川口翔吾

 映画上映後の休憩時間が終わり、ブザーの音に続いて、座談会の開始を告げるアナウンスが流れた。まず鈴木清順監督が入場し、続いて蓮實重彦氏、山根貞男先生も。満員の客席はどよめき、それはすぐに大きな拍手にかわる。今から世界的に著名な映画作家と時間を共にするのだ。それだけで、観客のひとりとして映画祭に参加した私の胸は、喜びで満たされた。

鈴木清純監督
「歌」と「踊り」と「恋」が入っていると楽しいし、それに「仕掛けもの」がたくさん出来ると思ったんだ……。

 鈴木清順氏は『オペレッタ狸御殿』を撮った理由を訊かれ、事も無げにそう答えた。その通り、この映画には歌も踊りも恋もある、仕掛けはいたるところに用意されている。ではここでストーリーを簡潔に紹介しておく。いや、簡潔なストーリーを紹介する、のほうが正確であろう。

 ある日、主人公の雨千代と狸姫が恋に落ちる。掟破りの異類間恋愛、当然のように、二人の前にはたくさんの障害が立ちふさがる。二人は助け合いつつ、ある時は偶然に助けられつつ、それらを乗り越えていく。最後には二人の禁じられた恋が成就する。

 あまりに簡潔すぎると思われるかもしれないが、実際にこの通りなのだから仕方がない。

蓮實重彦氏
もう一人のゲストである蓮實重彦氏はこの映画を評して「監督の執念深さと軽さが結実している」といった。
 実は、監督は『オペレッタ狸御殿』を『陽炎座』の次に撮る映画として構想していたそうだ。随分昔の話である。当時の<狸御殿計画>は主に金銭面の理由から頓挫したそうだが、その映画が世紀をまたいで撮られたのだ、確かに監督の執念を感じる。そういわれてみると、『陽炎座』から派生したとおぼしきアイデア(=仕掛け)も随所に発見できる。
 他方、軽さについてであるが、劇中音楽一つをとってみるだけで明らかだ。クラシックかと思うとビーチボーイズ風コーラス付きのロック、ついにはラップまでかましてくる。それがまた格好よくて、限りなくポップなのだ。安土桃山とびるぜん婆ァのラップの応酬はまさに「威風飄々」、監督の鋭敏なポップ感覚が表れていた。

映画『オペレッタ狸御殿』より
 座談も終盤にさしかかった頃、監督は「私は客のために映画を撮るのだ」と言い切った。実に心強い。しかし一方で「最近の客のことはどうしてもわからない、とくに笑いに関してはまったく……」と洩らす。だが『オペレッタ狸御殿』は底ぬけに明るくて、笑える映画だった。監督が偏愛する「仕掛けもの」も効果絶大、我々の心を捕えて離さなかった。
「映画っていうのは全部いただきの、いいとこ取りなんだ」と語った監督に是非とも伺いたい。あらゆる時代の、あらゆる分野の「いいとこ」を取ってきた(撮ってきた)監督、これから世界の「いいとこ」は何処へ向かっていくとお考えですか?
 おそらく「ふふっ」と鼻で笑い、「そんなことがわかれば苦労しませんよ」と答えられるのだろうが。